大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(う)1500号 判決

本件の事実関係は,既に述べたとおりであるが,次のような注目すべき事情がある。

1 本件三角取引は,サンクローズの資金繰りの便のため企図されたものであって,同社は売買代金名義で猪又から支払いの確実な約束手形を取得する一方,ロッテ物産はサンクローズ振出の約束手形を取得するにとどまるところ,同社は,本件当時その経営が危機に瀕し,毎月多額に上る借入をしながら,ようやく存立を続けているような状態にあって,同社振出の手形は,その支払いの確実性に多大の疑問があるものであったうえ(猪又は,サンクローズが倒産し,自社の保有するサンクローズ振出の手形が不渡になるのを恐れるあまり,三角取引に引き込まれた。),取引は当初から,2億円ないし3億円程度という巨額に達するまで継続的に行われることが予定されていたのである。

2 所論は,三角取引も,商社が通常行っている,単に売買当事者の間に入るにとどまるいわゆる介入取引以上に危険なものではないという。なるほど,いずれも金融目的で行われることがあるものであるが,三角取引の場合においては,それ自体として,金融の利益を得る者の困窮程度の強いことが如実に示されているうえ,取引対象の商品について最終の処分方法が決まっておらず,代金調達の見通しが得られていないことなどからすると,介入取引の場合よりも代金不払いの危険性が更に一層高く,従って,金融の便を与える側では,取引開始前の調査を詳細に行い,その結果を慎重に検討し,安全を見込んだ取引条件の設定を考慮するなど,厳しい対応をすることにならざるをえないことが明らかである。

3 所論は,サンクローズの債務については,ロッテ物産のため共栄商事の土地に極度額1億円の根抵当権が設定され,また,売買される商品にも担保物件としての機能があるから,ロッテ物産が債権管理さえ確実にすれば,ロッテ物産に危険はなかったなどという。しかし,被告人両名は,当初から2億円ないし3億円位の取引を予定し,現実に3億数千万円に達する取引が行われており,また,取引商品は衣料品であって,もともと担保として把握しにくいものであるうえ,実際上も,商品の動かないことがあったり,動いてもロッテ物産の手を経ないことが少なくなく,担保として多くを期待できなかったものである。のみならず,ロッテ物産におけるサンクローズの取引枠は,8000万円ないし1億円であったが,被告人両名は,右のように初めからこれを超える取引を予定し,取引枠を守るつもりなどなく,問題が起きても,ロッテ物産社員の濱田を仲間に取り込んでいたことから,同人に適宜処理させる意図であったとうかがわれ,現に,三角取引が始まった時点において,既に取引枠は使い果たされていたのに,取引は次々と行われており,ロッテ物産において,サンクローズの取引枠が正常に管理されるというようなことは,もともと殆どありえないことであるとともに,このことは,被告人らにおいて十分計算に入れていたところであると認められる。

以上のような諸事情からすると,三角取引は,ロッテ物産に対し,資金的に極めて大きな危険を負担させるものでありながら,同社は従前サンクローズと何ら特別の関係になかったのであるから,被告人両名としては,三角取引に当たり,ロッテ物産の取引決裁権限を有する者に対し,商取引における信義誠実の原則に照らして,三角取引の内容を告知すべき義務があったと解され,被告人らがこれに反して取引内容を秘し,通常の取引のように装いつつ,猪又の商品を買い入れるよう申し入れたことは,違法な不作為を含む,詐欺罪の欺罔行為に該当するものということができる。

なお,所論は,欺罔行為の要件として,売買代金を支払う意思やその能力のなかったことが必要であるというが,そのように解すべき理由は見出し難く,その他所論中にあらためて判断を要するものがあるとは思われない。

従って,被告人杉原,同山村らの本件所為について欺罔行為の存在を認めた原判決に,所論のような法令の解釈適用の誤りはなく,論旨は理由がない。

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